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岡山地方裁判所 平成11年(ワ)395号 判決

原告

福間犀一

ほか二名

被告

髙山洋子

ほか一名

主文

一  被告らは、原告福間犀一に対し、連帯して金一六七九万八六六八円及びこれに対する平成一〇年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告福間邦佳に対し、連帯して金八三九万九三三四円及びこれに対する平成一〇年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告井口ます子に対し、連帯して金八三九万九三三四円及びこれに対する平成一〇年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

六  この判決の第一項ないし第三項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告らは、原告福間犀一に対し、連帯して金二二四四万九九一〇円及びこれに対する平成一〇年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告福間邦佳に対し、連帯して金一〇六二万四九五五円及びこれに対する平成一〇年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告井口ます子に対し、連帯して金一〇六二万四九五五円及びこれに対する平成一〇年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要 本件は、自動車と自転車との衝突事故の事案であり、原告らは、民法七〇九条ないし自賠法三条に基づき死亡した被害者の相続人としての損害賠償と遺族固有の損害賠償を請求した。

一  争いのない事実

1  本件交通事故

(一) 発生日時 平成一〇年二月二日午後五時四五分頃

(二) 発生場所 岡山県邑久郡邑久町福元六六八番地先交差点

(三) 被告車両 普通乗用自動車

(四) 右運転者 被告髙山洋子

(五) 右保有者 被告髙山昇一

(六) 原告車両 自転車

(七) 被害者 亡福間貞子(以下「貞子」という)

(八) 事故態様 被告髙山洋子は、被告車両を運転して信号のない交差点を右折する際、右方不注視のまま早回り右折し、対向車線に接する右方の自転車横断帯を対向方向から自転車に乗って横断中の貞子に気付かないまま、被告車両右前部を原告車両右側面中央付近に衝突させて、貞子を転倒させ、さらに直ちにブレーキを踏むべきところ誤ってアクセルを踏み、転倒した貞子と原告車両を約七メートル前方へ押し出した後被告車両を停止させたため、貞子を脳挫傷、急性硬膜下血腫及び多発骨折等により死亡させた。

2  責任原因

被告髙山洋子には、自転車横断帯のある交差点において、右方不注視のままいわゆる早回り右折をし、更に衝突後もブレーキとアクセルを踏み間違えたという過失があるから、民法七〇九条及び自賠法三条の責任を負う。被告髙山昇一は、被告車両の保有者として自賠法三条の責任を負う。

3  相続

貞子は本件交通事故により平成一〇年二月三日死亡し、夫の原告福間犀一が二分の一、子の原告福間邦佳と原告井口ます子が各四分の一の割合で貞子の被告らに対して有する損害賠償請求権を相続した。

二  争点

1  損害

(一) 原告らの主張

(1) 治療費 三五万九一六一円

(2) 葬儀費用 一三〇万円

(3) 逸失利益

〈1〉 主婦労働分 一〇六五万一九一一円

貞子は、本件交通事故当時七六歳の主婦であり、通院加療中の夫原告福間犀一の世話や同居の長男原告福間邦佳の食事洗濯等の世話など家事全般及び畑仕事をしていた。したがって、平成九年賃金センサス第一巻第一表産業計企業計学歴計女子労働者年齢別平均賃金年収二九六万四二〇〇円を基礎収入とすべきであり、生活費控除三〇パーセント、平成八年簡易生命表による七六歳女性の平均余命一二・六七年の二分の一の六年を貞子の就労可能年数としてこれに該当する新ホフマン係数五・一三三六を各乗じて逸失利益を算定すると右金額となる。

〈2〉 国民年金老齢年金分 二九四万七九一〇円

貞子は国民年金老齢年金として年間四五万七〇〇〇円を受領しており、生活費控除三〇パーセント、平均余命一二年の新ホフマン係数九・二一五一を各乗じて逸失利益を算定すると右金額となる。

(4) 貞子の慰藉料 二〇〇〇万円

(5) 損害の填補 三五万九一六一円(治療費)

(6) 原告ら固有の慰藉料

原告福間犀一が三〇〇万円、原告福間邦佳と原告井口ます子が各一〇〇万円

(7) 弁護士費用

原告福間犀一が二〇〇万円、原告福間邦佳と原告井口ます子が各九〇万円

(二) 被告らの認否反論

(1) 治療費は認める。

(2) 葬儀費用は知らない。

(3) 逸失利益は争う。基礎収入としての年齢別平均賃金は岡山県企業規模計女性労働者年齢別平均賃金二三七万五七〇〇円を採用すべきである。貞子が年金生活者であったこと、同居者の長男である原告福間邦佳は経済的に独立しており被扶養者が存在しないことからすれば、貞子の収入は殆ど生活費に充てられたと考えるべきであるから、生活費控除の率は五〇パーセントとするのが相当である。

国民年金老齢年金の生活費控除率についてもその性質上生活費として費消する比率が高いと考えられるから少なくとも五〇パーセントとすることが相当である。

(4) 貞子の慰藉料は争う。

(5) 損害の填補は認める。

(6) 原告ら固有の慰藉料は争う。

(7) 弁護士費用は争う。

2  過失相殺

(一) 被告らの主張

本件交通事故の時間帯は日没後で真暗な状態だったにもかかわらず貞子は無灯火運転をしていたものであり、少なくとも二〇パーセントの過失相殺がされるべきである。

(二) 原告らの主張

本件交通事故は日没後一二分経過した時刻に発生したものであり、日没後太陽の伏角が六度以内の市民薄明と言われる明るさであり、戸外の作業に差し支えない程度の明るさだった。したがって、被告髙山洋子において原告車両を視認することが困難であったとはいえず、過失相殺の余地はない。また、被告髙山洋子にはいわゆる早回り右折や衝突後のブレーキとアクセルの踏み間違いという著しい過失があるから、仮に貞子に過失があるとしても、過失相殺は相当でない。

第三争点に対する判断

一  貞子の損害

1  治療費 三五万九一六一円(争いない)

2  逸失利益

(一) 主婦労働分 七三七万二〇九五円

甲第四号証及び第一九号証並びに原告福間邦佳本人尋問の結果によれば、貞子は大正一一年二月一日生まれで本件交通事故当時七六歳の主婦であり、通院加療中の夫原告福間犀一の世話や同居の長男原告福間邦佳の食事洗濯等の世話など家事全般に携わっていたほか畑仕事をしていたことが認められる。そうすると、平成九年賃金センサス女子労働者学歴計六五歳以上の平均賃金年収二九六万四二〇〇円の七割に相当する二〇七万四九四〇円を基礎年収とし、労働能力喪失の期間を平成八年簡易生命表による七六歳の女性の平均余命一二・六七歳の二分の一の六年とすることが相当と認める。そして、貞子が生存していたならば支出したであろう生活費を控除すべきところ、その率については貞子が専業主婦だったことに鑑みて三〇パーセントとして、六年のライプニッツ係数五・〇七五六を乗じて中間利息を控除すると、主婦労働分の逸失利益は右金額になる(一円未満切り捨て)。

(二) 国民年金老齢年金分 二〇二万五二四一円

甲第七号証によれば、貞子は国民年金老齢年金として年額四五万七〇〇〇円の給付を受けていたことが認められる。生活費控除の率は老齢年金の性格に鑑みて五〇パーセントとするのが相当であり、前記平均余命一二年に該当するライプニッツ係数八・八六三二を乗じて中間利息を控除すると、国民年金老齢年金分の逸失利益は右金額になる(一円未満切り捨て)。

3  慰藉料 一六〇〇万円

貞子の年齢、家族構成等諸般の事情に鑑み一六〇〇万円をもって相当と認める。

二  過失相殺

甲第一〇号証ないし第一三号証、第一五号証ないし第一八号証によれば、本件交通事故の現場は信号機のない交差点であり、周囲に街路灯等はなかったこと、貞子は無灯火の自転車に乗り、被告車両の対向方向から自転車横断帯上を走行して交差点を通過していたこと、事故時は日没一二分後であったが、天候が晴れだったため日没後約三〇分間は屋外における作業が可能な程度の明るさが保たれていたこと、被告髙山洋子は、右折前に停止線前で一時停止し、その後に右折を開始したが、帰宅を急ぐ余りいわゆる早回り右折(交差点の中心の直近の内側を進行しない右折)をし、右方の確認が不十分だったため衝突まで貞子の存在に気が付かず、衝突直後に気が動転してブレーキとアクセルを踏み間違え、貞子を被告車両の前部で約七メートル押し出して停止したことが認められる。

右によれば、昼間に比べて自転車を視認しにくい明るさだったことは推認されるが、夜間に比べれば自転車の視認は容易だったということができる。そして、貞子は特に安全を保護するために設けられた自転車通行帯を通行しており、被告髙山洋子にとって注意を払い易い状況下にあったのに貞子に全く気付かなかったこと、被告髙山洋子がいわゆる早回り右折という危険な態様で右折をしたこと、右折前に一時停止したのであるから本来低速の状態で貞子に衝突したはずであり(被告髙山洋子は警察段階で衝突時は時速約一五キロメートルだったと供述している)、当然には死の結果が生じるとは限らないというべきところ、衝突後ブレーキとアクセルを踏み間違えるという損害を拡大させるような著しい過失を侵したことを考慮すれば、貞子が前照灯を点灯させていなかったことに比べて被告髙山洋子の過失は著しいといわざるをえず、被告らの過失相殺の主張を採用することはできない。

三  相続

前記相続分に従えば、貞子の損害について、原告福間犀一が一二八七万八二四九円、原告福間邦佳及び原告井口ます子が各六四三万九一二四円を相続することとなる。

四  原告ら固有の損害

1  葬儀費用 原告福間犀一 六〇万円

原告福間邦佳及び原告井口ます子 各三〇万円

甲第一四号証及び原告福間邦佳本人尋問の結果によれば、貞子の葬儀費用として一〇二万六三九〇円が支出されたことに加えて布施や戒名料として四〇万円近くの支出がされたことが認められるが、同種事案との均衡に従い一二〇万円の限度で本件交通事故と相当因果関係のある葬儀費用と認められ、相続分に従い原告らが右金額のとおり負担したものと推認すべきである。

2  慰藉料 原告福間犀一 二〇〇万円

原告福間邦佳及び原告井口ます子 各一〇〇万円

貞子と原告らの身分関係、事故の結果、貞子の慰藉料との均衡等によれば、原告らの遺族固有の慰藉料は右金額が相当と認める。

五  損害の填補 原告福間犀一 一七万九五八一円

原告福間邦佳及び原告井口ます子 各八万九七九〇円

本件交通事故の損害賠償として三五万九一六一円が支払われたことは当事者間に争いがないから、相続分にしたがって右金額をそれぞれ損害額から控除すべきである。

六  弁護士費用 原告福間犀一 一五〇万円

原告福間邦佳及び原告井口ます子 各七五万円

原告らが本件訴訟の提起及び追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であり、事案の内容及び損害額等本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、右金額をもって本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用と認める。

七  結論

以上によれば、原告福間犀一の損害は一六七九万八六六八円、原告福間邦佳及び原告井口ます子の損害は各八三九万九三三四円と算定される。

よって、原告らの請求は右金額及びこれに対する本件交通事故の日である平成一〇年二月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 酒井良介)

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